皇位継承問題に対する政治の取り組みが長く停滞して来た。
それがようやく動き出すのか、どうか。岸田文雄首相は今年の2月に「先送りの許されない課題」と訴えた。
政府が(白紙回答+欠陥だらけの提案を盛り込んだ)
有識者会議報告書の検討を国会に委ねたのは、昨年1月のこと。
それ以来、国会で1年以上も何ら進展が見られなかった。
それに業を煮やした格好だ。これに対して先頃、自民党の萩生田光一政調会長が遅れ馳せながら、
党内論議を始める意思を示すという反応が見られた
(産経新聞9月27日付)。
これによって事態が動くのか、どうか。党の役員会でも報告があったようだから
(これはさる役員から直接、伺った)、
自民党もやっと重い腰を上げる可能性が見えて来た。萩生田氏による党内の意見集約も当然、
岸田氏自身の意向が1つの軸になるはずだ。では、同問題への岸田氏の考え方はどうか。
先日の私のブログ(8月31日、「岸田首相『旧宮家案を
含めて女系天皇以外の方策』の真意とは」)での見通しが
的外れでなければ、恐らく①女性天皇と③旧宮家子孫養子縁組
という、2つのプランを主な検討対象にしようとするものだろう。報告書により近い形なら、①ではなく、④内親王·女王がご婚姻後も
皇籍にとどまられるプラン(皇位継承資格なし、女性天皇に繋がらない)
に後退する虞(おそ)れもある。いずれにせよ、党内外の男系固執勢力と真正面から
激突するのを回避しながら、この問題への取り組みを進める、
という腹づもりだろう。岸田氏にとってそのやり方が、現在の政治状況下で
最も結果を出しやすい手法に見えているのだろう。
これは逆に言えば、ある程度、本気で取り組もうとしている
ことを意味するのかも知れない。萩生田氏の政調会長再任に当たり、
「皇位継承策の作業を急がなければならないという問題意識」
(産経新聞、前出)を伝えた事実からも、そのように考えられる。その場合、普通に考えて③の実現可能性は低いだろう。
万が一、内閣法制局が政府の意向を忖度(そんたく)して、
憲法違反の疑いを否定する無理筋な答弁を敢えて行った場合、
天皇·皇室を巡る制度と国民平等の理念との均衡について、
長年にわたる国民の信頼感が崩れかねない。更に、養子縁組の対象となる旧宮家子孫当事者の同意は、
至難と考えるのが常識的だし、政府もそのことは
分かっているはずだ。
そうすると、岸田氏の“本音”は、③を一先ず男系派への効果的な
目眩ましに使って、①又は④の制度化に道筋を付けることでは
あるまいか。①であれば、例えば男系派から支持が厚い高市早苗経済安保相も
認めているように、(一部を除き)強烈な反発も
避けることができる、という読みが岸田氏にはあるのだろう。しかし勿論、油断すると④に逃げ込む可能性も否定できない。
①か④か。だが④だと、内親王·女王の配偶者は勿論、お子様も
国民としてあらゆる権利·自由を保障される。
そうすると、日本国及び日本国民統合の「象徴」であられ、
国政権能を持たれないという天皇·皇室の憲法上のお立場と、
原理的に両立し得ない。その上、皇族と国民が1つの世帯を営むという、
家族の一体性を全く顧慮しない、当事者にとっても到底
受け入れ難い仕組みになっている。なので、岸田氏や政府関係者に最低限の常識的な感覚が
もしあれば、④でなく①が1つの落とし所として浮かび上がるはずだ。
但し④でなく①という選択をした場合、内親王·女王が婚姻されたら、
配偶者はもとより、お子様も皇族としての身分を保持される。その時に、お子様方の皇位継承資格を認めなければ、
そもそも内親王·女王方がせっかくご婚姻後も皇室に残られても、
皇室の存続と皇位の安定継承の為には(次の世代への
バトンタッチができず!)何の意味もない結果となる。即ち、②を除外して①だけを認めるという判断は
(岸田氏自身は②への否定的な見解を既に公表しているが)、
制度としての整合性を考えるとおよそあり得ないことになる。そう考えるのが当たり前の理性的判断のはずだ。
果たして…。【高森明勅公式サイト】
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